プラハの国民劇場の支配人シュベルト[František Adolf Šubert, 1849–1915]は、バルト海に浮かぶルヤナ島(リューゲン島)のスラヴ民族がデンマーク王ヴァルデマ一世 [Valdemar I, 1131-1182] の侵攻に遭って敗北した歴史的悲劇に感銘を受け、この題材をフィビヒに渡した。これを アネシュカ・シュルゾヴァー[Anežka Schulzová, 1868-1905] が台本化した上で、《アルクンの陥落》が作曲された。《アルクンの陥落》は、1 幕の序章《ヘルガ》Op.55 と、その 20 年後を描いた 3 幕の《ダルグン》Op.60 から成っている。
本作に於いてもライトモティーフが用いられており、ヴァーグナーの影響が垣間見られる。また、第2部第3幕とそこから引用した序曲終盤に於いて、パイプオルガンによってグレゴリオ聖歌《テ・デウム》が奏されることも特徴の一つである。
人物 | 概要 |
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ダルグン [Dargun] | スヴァントヴィト教の司教。第2部では大司教 |
ヘルガ [Helga] | グナルの娘。アブサロンの許婚 |
グナル [Gunar] | ヘルガの父 |
アブサロン [Absalon] | ヘルガの許婚。カトリック司教、デンマーク帝国大法官 |
スヴァントヴィト神 [Svantovitových] | ルヤナ島のスラヴ人が信仰するスヴァントヴィト教の神 |
ルタン [Rutan] | ルヤナ島のスラヴ人。テチスラフ候の公子 |
ヤロムニェル [Jaroměr] | ルヤナ島のスラヴ人。テチスラフ候の公子 |
ラダナ [Radana] | ルタンの妻 |
ドレン [Dolen] | スヴァントヴィト教の司教 |
マルギット [Margit] | ダルグンとヘルガの娘 |
グナルの娘ヘルガはアブサロンの許婚であったが、スヴァントヴィト教の司教ダルグンを愛していた。
彼女はダルグンの子を身籠ったが、自らの神に自身の全てを捧げようとしているダルグンはそれに応えなかった。
それを知った父グナルはダルグンへ復讐を欲し、アブサロンにヘルガを守ってくれるようにと頼んだ。
それから二十年の歳月が過ぎ、ダルグンは大司教となっていた。
アブサロンは、ヘルガとダルグンの間に生まれた娘マルギットと共にルヤナ島に上陸した。
彼らがデンマーク軍の到着を待っている間に、ダルグンは月明かりの中でマルギットに出会った。ダルグンは、ヘルガにそっくりなマルギットの姿に驚き、「ヘルガ!」と叫んで逃げ出した。
アブサロンは、マルギットにそれが彼女の父であると教えることを拒んだ。
ダルグンは月明かりの中で遭遇した幻影(マルギットのこと)を自らの敵対者・死神であるキリスト神が遣わした幻影であると考え、スヴァントヴィト神への信頼が揺らぐ。
この他、ルヤナ島での出来事が、テチスラフ候の息子ルタンとヤロムニェル、ルタンの妻ラダナとの三角関係等の人間模様を交えて描かれる。
デンマーク軍がルヤナ島に到着し、侵攻が始まる。激しい戦いの中、ダルグンは自らの神スヴァントヴィトを罵り、その像を破壊すると、炎上する寺院の中で息絶えた。
ダルグンらとの戦いに勝利したアブサロンとデンマーク軍は、グレゴリオ聖歌《テ・デウム》(神よ、あなたを讃えます)を歌う。
原題の "Pád Arkuna" に忠実に邦題を記すと「アルクンの陥落」となる。台本を書いたアネシュカ・シュルゾヴァーがフィビヒの死後書いた記事には "Arkun" と記しており("Arkuna" はチェコ語で "Arkun" の2格の形)、当時チェコ語では「アルコナ」ではなく「アルクン」と呼んでいたことが窺える。しかし現ドイツ領であるこの場所は、ドイツ語では "Arkona" (アルコナ)であり、現在ではチェコ語でも "Arkona" と表記される。よって、現在の地名として通じるように意訳するなら「アルコナの陥落」との表記となる。ここではそれを踏まえた上で作曲者の命名を尊重し、作品名としては「アルクンの陥落」と記した。
より詳細な解説は、国際マルティヌー協会日本支部の会合にて配布した。