作品紹介

オペラ《嵐》Op.40

Bouře, Zpěvohrao 3 jednáních Báseň Op.40

作曲:1893年10月~1894年10月
編成:Opera: 12 vocal, 2 Chor and orch.
初演:1895年3月1日 国民劇場(プラハ) Adolf Čech, František Adolf Šubert
初版:1895年(ヴォーカルスコア) Fr. A. Urbánek, Praha, U.874

3幕構成のオペラ。独立した序曲は持っていないが、12人の独唱に加えて2つの合唱を伴うのは、彼のオペラとしては大掛かりな編成である。
シェークスピアの原作を元に、ヤロスラフ・ヴルフリツキー [Jaroslav Vrchlický] が書いた台本に拠っている。
楽譜は、1895年にヴォーカルスコアが出版されたものの、その後も抜粋してピアノ曲集に編曲されたものが2冊刊行されたのみで、フルスコアが出版されることはなかった。
Fibich は1880年にも、シェークスピアのこの作品を元に「交響的絵画《嵐》」Op.46 という、一種の交響詩を作曲している。ちなみにこの交響詩のピアノ連弾版(アネシュカ・シュルゾヴァー [Anežka Schulzová] による)が、この作品が出版された翌1896年に出版されている。

この作品が書かれた年には、ピアノ曲集《気分、印象と追憶》Op.41 の作曲が既に始まっていた。 本作品には、その《気分、印象と追憶》Op.41と共通のフレーズを幾つか見出すことが出来る。
以下に、譜例を添えて紹介する。


第2幕

最初のFernando のシーンでAndanteになるところ。
Opra Bpuře Op.40 II, andante 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.84
伴奏和音の刻みが3連符か16部音符の4連音か等の違いはあるが、ここの管弦楽のパートは、《気分、印象と追憶》Op.41-44 B-Dur, Andante とかなり似たものとなっている。
下の譜例は、《気分、印象と追憶》Op.41-44 B-durの冒頭部分。
この曲には、"44" の曲番の下に 「オペラ”嵐”のための下書き」(Studie k opeře "Bouře") と記されている。ZDENĚK FIBICH TEMATICKÝ KATALOG には、タイトルは「紫のドレスを着たアネシュカ」 (Anežka ve fialových šatech.) とある。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-44, Editio Spraphon, Praha, P.45


しかしながら、続く "Des-C-F-F-F-E-Es-D" のフレーズは、歌詞の取り回しの都合からか、《嵐》Op.40 では3回、《気分、印象と追憶》Op.41-44 では2回となっている。
P.85
下の譜例は、《気分、印象と追憶》Op.41-44 B-durの当該部分。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-44, Editio Spraphon, Praha, P.45


第3幕

第3幕冒頭は、《気分、印象と追憶》Op.41-94 に共通する。
序奏の後の拍子変更の有無など、幾つかの違いはあるが、基本的に殆ど同じである。
この装飾音を含む分散和音の音型は、第3幕で計3回登場する。
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.146
下の譜例は、《気分、印象と追憶》Op.41-94 As-dur, Lento - Allegro zefiroso e leggiero の当該部分。
殆ど変わるところがない。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-94, Editio Spraphon, Praha, P.90


上記のあと、3/2拍子のAndante sostenuto になると、"I-IV63-I-IV-VI" の和声進行を持つ、三連符で始まる音型が出てくる。このオペラではこの音型を繰り返す箇所が何度か登場するが、 Op.41-109 のカデンツの一部となって現れる。(譜例1回目はAs-Dur、転調を経て2回目はb-moll)
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.147
下の譜例は、《気分、印象と追憶》Op.41-109 C-dur, Andante sostenuto e molto espressivoの当該部分。
但しこちらでは5つ目のの和音が VI ではなく I になっている。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-109, Editio Spraphon, Praha, I/3, P.21
より直接的なのが、Op.41-104 As-Dur, Lento である。
《嵐》の上記 3/2拍子 Andante sostenuto と比べると、18小節目と、最後の2小節が追加されている他は、殆ど違いがない。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-104, Editio Spraphon, Praha, I/3, P.17


《嵐》第3幕、AllegrettoからのPiù mosso
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.152
下の譜例は、《気分、印象と追憶》Op.41-106
10,12,13小節の左手が三連符ではなくなっているが、その他は殆ど変わらない。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-106, Editio Spraphon, Praha, I/3, P.19


前半、幽霊2のシーン冒頭。
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.168
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.169
《気分、印象と追憶》Op.41-91。冒頭9小節が、上記のオーケストラパートに対応する。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-91, Editio Spraphon, Praha, I/3, P.5


上の幽霊2のシーンの途中、 Meno mosso. からの部分も、《気分、印象と追憶》の中に見出すことが出来る。
更にその後のPiù mosso への繋ぎで、また "I-VI63-I-VI-I" の和声が顔を出す。
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.169
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.169
《気分、印象と追憶》Op.41-108。短三度下に移調され、4小節目に変更が見られるが、上記のオーケストラパートに対応する。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-108, Editio Spraphon, Praha, I/3, P.20


続いて、第3の幽霊のシーン。
冒頭の Con moto. と、Vivo ma non troppo. の部分。
対応箇所毎に、枠線の色を変えてある。
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.170
Opra Bpuře Op.40 III, 1893 Fr. A. Urbánek, Praha, P.171
《気分、印象と追憶》Op.41-101 前半の一部が、上記の Con moto. に、Op.41-51 が、同じく Vivo ma non troppo. の部分にそれぞれ対応する。
次の譜例は、Op.41-101
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-51, Editio Spraphon, Praha, I/3, P.15
次の譜例は、Op.41-51 「髪」という題がついている。
《嵐》の中では間近に置かれていることから、Op.41-51,101 も作曲の日付が近いのかと思いきや、そうでもない。
どちらも1893年ではあるが、Op.41-51は3月17日、Op.41-101は10月12日と、半年以上の間を空けての作曲となっている。
Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-51, Editio Spraphon, Praha, II/1, P.6 Nálady, Dojmy a Upomínky Op.41-51, Editio Spraphon, Praha, II/1, P.7


以上、この両作品の共通する楽句が多数存在することを見てきた。
長い楽句は途中まで示し、同じ音型が複数箇所で見られる部分については、代表で1,2ヶ所程度を示してきた。また、ここでは触れていないケースも多数あり、実際の類似点はこれ以上の量になる。
《気分、印象と追憶》Op.41 の個々の曲は、いずれも作曲の日付が明らかになっている。しかし両者は同時期に書かれている作品で、どちらがどちらの元になっているかは、これだけでは分からない。



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